多様な出口の準備が必要「生活困窮者自立支援制度」

 19日、横浜北生活クラブ生協の組合員の皆さんとの、子ども・若者をテーマにした勉強会で、子育ての孤立化や貧困、保育ニーズの多様性とサービスのミスマッチといった課題についてお話させていただきました。もうお一方のスピーカー、ワーカーズ・コレクティブ協会専務理事のの岡田百合子さんからは、協会が取り組んできた就労支援や多様な働き場を広げる実践について報告があり、「子育て支援」と「働き方を変える」というコインの裏表のようなテーマをクロスさせる貴重な機会となりました。協会は、「生活困窮者自立支援法」の施行に伴い、横浜市就労準備支援事業(*1)も受託されています。非常にタイムリーなお話を伺いましたので、ここに記しておきたいと思います。

今年4月より「生活困窮者自立支援法」が施行となり、各自治体の取組みも本格的にスタート。横浜市の各区役所の「保護課」は「生活支援課」へと名称が変わりました。ご存知でしたか?区によっては、こんなアナウンスしています。→戸塚区役所 
多くの自治体が、生活困窮者自立支援制度のうち必須事業の相談支援事業の実施に留まる中、県内では横浜市と相模原市が、就労準備、家計相談、一時生活支援、学習支援といった4つの任意事業にも取り組むようです。

横浜市は、2013年10月から2014年3月まで、「生活困窮者自立促進支援モデル事業」を実施していますが、そこでも任意事業に取り組みました。その実施状況についてヒアリングを行った 厚生労働省アフターサービス推進室の報告書も公表されています。報告書には、生活困窮者自立支援制度の円滑な施行に向けて、まず、『多様な「出口」の準備」の必要性が書かれています。ちょっと長いですが引用します

(引用開始)生活困窮者自立支援制度が総合相談事業である以上、相談室の「入口」を広くし、多くの相談者を受け入れるた めには、まず、「出口」を つくる必要がある。従来のハローワーク等へのつなぎを中心とした就労支援に加 えて、相談者の個性・困難性に応じた段階的で多彩な支援プログラムを用意し、 就労の場や新しい居場所へ 導く多様な「出口」を準備することが必要である。地 域ネットワークを活用し、相談者の状況に適した、就労の場や居場所を確保・創出できなければ、相談者が滞留することになる。各自治体の事業関係者は、就労支援のための関係機関等へのつなぎと共に、地域における「仕事づくり」や相談者の主体性を重んじ肯定的に受容できる新しい居場所、仲間との出会いの場をいかに多様に確保できるかが、本事業運営上の最大のポイントととらえている。(引用終わり)
 
はてさて、多様な出口の準備は進んでいるのでしょうか?
神奈川県も生活困窮者自立相談支援モデル事業に取り組んで来たはず。厚生労働省アフターサービス推進室の指摘するポイントは、私も何度か提言させてもらったことです。(2013年レポート 2014年レポート
事業の目的は、「県がまずモデル事業に取組むことで各市(保健事務所設置市)への助言、情報提供その他援助を行い、県内全域で事業を実施する」ということでしたが、どんなことになっているのだろうか?おりしも、次回の黒岩知事との対話のひろばのテーマは『「生活困窮」の現状と課題』だそうです。注目したいと思います。ユーストリームで生中継配信もあります。

横浜市の就労準備支援事業(モデル事業も含め)を受託されている、ワーカーズ・コレクティブ協会は、誰でも共に働く場をめざす社会的事業所としてさまざまな実践(*2)と提言を重ねてこられています。岡田百合子さんからは、支援を通じて出会った事例として、生活保護世帯で育ち家族の働く姿を見た事がなく働く意味が解らない、不登校からひきこもりとなった、親が病気でそのケアのために働けない、親が行方不明で兄弟だけで生活しているといった若者たちの状況も伝えられました。就労支援にはちょっとした見守りやサポートを行う生活支援や、多種多様な働き場や社会参加の場が必要であり、受け皿として社会的企業や事業所を増やすための支援の必要性も提起されました。

横浜市は、生活困窮者自立支援法施行に先立ち「市内の中間的就労実施事業所に対する就労訓練事業の普及啓発や新規開拓、就労訓練事業実施事業所間の連携作り等の生活困窮者就労訓練事業の促進」を掲げ横浜市就労訓練事業支援センター(*3)もモデル的に運営していました。事業の運営状況やその評価、また、今後はどのような事業を構想しているのか、市の考え方をできるだけ早い時期に明らかにしてほしいと思います。
 
(*1)「横浜市就労準備支援事業の概要」 
健康福祉局保護課 27 年度事業概要説明より
 
 横浜市就労準備支援事業対象者 
生活保護受給者および生活困窮者自立支援法に基づく自立相談支援事業の対象者
(以下、「生活困窮者」という)で、長期間無業状態にある等により就労経験に乏しく、直 ちに求職活動を行うことが困難であり、就労意欲の喚起や一般就労に向けた基礎能力の形 成に関する支援を必要とする 15 歳から 64 歳の稼動年齢層にある者で、本事業への参加 意思がある者。なお、生活困窮者については、事業利用についての支援決定を受けた者
 
(*2) 1980年代にワーカーズ・コレクティブが誕生してから間もない頃から障がいを持った若者が実習を経て就労に繋がる事例があり、2005年調査では27団体で54人が実習や就労していたことを確認。2006年、就労体験の場を必要としていた「横浜若者サポートステーション」からの相談をきっかけに、ひきこもりの若者、困難を抱える若者たちの体験的就労や就業定着支援事業にも取組み、2011年からは生活保護過程の子どもたちの社会参加支援事業にも取り組む。
横浜市就労訓練事業支援センター(*3)
 「生活困窮者自立促進支援モデル事業」のうち、「就労訓練事業の推進」モデル事業」を実施するために、就労訓練事業支援センターを設置し、市内の中間的就労実施事業所に対する就労訓練事業の普及啓発や新規開拓、就労訓練事業実施事業所間の連携作り等の生活困窮者就労訓練事業の促進に関する事業を行う