あらためて詳細な経営実態調査を実施すべき〜訪問介護サービスのマイナス改定を受けて緊急円卓会議〜

2月14日、大河原まさこさんのコーディネートで厚生労働省との意見交換の機会を得ました。
テーマは、2024年度の介護報酬改定について。


次期介護報酬について、政府は、全体でプラス1.59%の改定を正式決定しましたが、訪問介護サービスについてはマイナス改定。
引き下げの理由として、「令和5年度介護事業経営実態調査」で、他の介護保険サービスに突出して高い7.8パーセントの収支差率となったことがあげられていますが、実感がわかないというか、訪問介護の実相とかけ離れた数字に思えてなりません。
この点について、上野千鶴子さんや樋口恵子さんは、「増加の一途であるサービス付き高齢者向け賃貸住宅(サ高住)等の併設事業所の収益率が高いからです。サービス提供効率が高く、調査の提出率も高いと考えられる」と指摘されていますが、それだけでしょうか。

サ高住併設型のような集合住宅で効率的なサービス提供を行う訪問介護事業所(減算対象)とそれ以外の事業所の収支差率を比較したデータを見ると、確かにサ高住併設型の収支差率は8.5%でかなり高いけれど、その他の訪問介護事業所の収支差率も5.3%と全サービス平均の収支差率2.4%を大きく上回っています。

一方で、福祉医療機構(WAM)によると、2022年度訪問介護事業所1,901カ所の42.8%が赤字で前年の40.1%から2.7ポイント拡大したとのこと。同レポートの2021年度収支分析には「赤字事業所は提供回数が少なく、身体介護の割合が小さい」ともありました。
あらためて、「令和5年度介護事業経営実態調査」の結果を見てみると、訪問介護における介護職員常勤換算数は平均6.2人というデータもあり、小規模事業所が多数を占めていることが推察されます。
厚労省担当職員に前出の調査について尋ねてみましたが、回答に偏りが出ないよう事業所規模や利用者数、地域区分などに配慮し適切に層化されたとのこと。私は、統計の専門家ではないけれど、最終的に7.8パーセントとされた訪問介護サービスの収支差率は幅を持って推測されているはずで、せめて、そこのところは知りたいと再確認したところ「誤差5%以内」なんだと。この場合の誤差5%の影響はかなり大きいのではないの?これは素人考えなのだろうか。さらに言えば、平均値だけでなく中央値も知りたい。が、「それは公表できません。」となり、「資料のグラフを見ていただくと大体のところはわかるのではないかと思います」とのこと。(ガクッ)
(↑グラフ見てますけど、よくわかりません。涙)
大体のところで言えば、かなり赤字の事業所もあるよねって感じでしょうか。

在宅介護は、多くの非正規職員、短時間労働者に支えられており、とりわけ訪問介護事業においてその傾向が強いと思われます。扶養範囲内での勤務を希望する職員も多く、賃金が上がると労働時間を抑制するという状況も生まれます。訪問介護の収支差率に、これらの影響が現れている可能性ついて、厚労省は、「あるかもしれない」とはおっしゃいましたが、このような構造的な問題にこそ目を向けるべきで、訪問介護事業については、あらためて詳細な経営実態調査を実施してもらいたい。

厚労省との意見交換に参加した人たちは、介護保険制度創設以前から、地域で助け合い活動をやってきた人たちです。「介護保険事業だけど、介護だけでなく、家事援助を通じて生活を支える仕事をやってきたんだ」と、ヘルパーという仕事に求められていることやその価値を高らかに話されました。

ヘルパーの移動時間や待機時間が、報酬が適切に反映される仕組みとなりにくいという課題もあります。移動時間や待機時間は「平均的、包括的に単位を設定し基本報酬に勘案されている」と言われますが、長距離を移動したり長時間の待機時間が生じることもあります。しかし、介護報酬はあくまでも介護を提供した時間に応じて発生する仕組みでしかありません。しかも、平均的、包括的な移動時間は30分と想定しているとのことで、これにはヘルパーから「無理、無理」という声があがりました。何より、平均的、包括的に勘案されている単位だから、基本報酬が下がると移動・待機単価も自動的に下がっちゃうので、これは困りますと。

訪問介護事業者の倒産が増加している状況を黙認する今の感じは、小規模事業者が淘汰されることはやむなし、サ高住等に集約化が進むことで効率のよいサービスが提供されればそれも良しという姿勢が透けて見えるようです。
世界一の高齢社会を迎えている日本。頼れる家族がいない高齢者は少なくないし、自宅で最期を迎える人は右肩上がりに増えていくだろうし。訪問介護は、在宅生活を支えるケアの要のはずなのに。
永田町からの帰り道、「やれるところまで、やるしかない」というヘルパーのつぶやきもやるせない。
モヤモヤしてる。