ドイツの介護保険制度を学ぶ

日本の介護保険制度は制度を維持するために、短いスパーンで改定を重ね、給付の抑制も進んでいます。一方、日本に先行して介護保険制度をスタートさせたドイツが、20年ぶりの制度改革に取り組み、認知症対策の強化などの目的で給付の対象を拡大、保険料は引き上げられたものの制度への信頼は高まったとの報道も目にしました。
2018年度の制度改定に向けた社会保障審議会・介護保険部会の中でもドイツの介護保険制度が取り上げられ、注目していたところ、先日、大河原まさこ衆議院議員と、国立国会図書館調査及び立法考査局社会労働課の近藤倫子さんから、ドイツの介護保険制度についてお話を伺う機会を得ました。

ほぼ同時期に介護保険制度を創設した日本とドイツ。高齢化の進展や家族介護の限界といった共通の課題があり、施設から地域・在宅ケアにシフトさせる方向性など政策的に重なる部分もありました。しかし、両国の制度をあらためて比較してみると相違点も多くあります。
例えば、日本には、介護保険制度の創設前から老人福祉法に基づく措置制度による介護体制がありました。一方、ドイツでは、高齢者が介護を受ける場合は原則自己負担、難しい場合は社会扶助(生活保護)となる仕組みでした。そのため高齢者の貧困を減らすことも、介護保険制度創設の目的であったと言います。
また、日本では40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)及び65歳以上の人(第1号被保険者)を給付対象者としていますが、ドイツでは、すべての年齢層で要介護状態となった人を対象としています。さらに、ドイツの制度で注目されるのは、現金給付の仕組み。
厚労省は、「介護保険制度創設時から現金給付について議論してきたが、家族介護の固定化や、サービスの普及を妨げることや、保険財政の拡大への懸念などがあり、導入を行わないこととした」と説明しています。その方向性については、2004年の介護保険部会の意見とりまとめでも覆ることはありませんでした。そして、2018年度の制度改定に向けた社会保障審議会・介護保険部会の中でも現金給付に言及する発言がありましたが、深い議論には至らなかったようです。(部会資料)しかし、今回、ドイツの状況を聞き、議論の入り口を閉じてしまうのももったいないなあと思っています。
ドイツでは、現物給付もしくは現金給付をそれぞれ選択することもできるし、現物給付と現金給付を組み合わせて受給することもできる、また、給付された現金を活用して知人や友人、地域のボランティアからサービスを受けることも多いそう。給付された現金を全てサービスに充てる事例は少ないと言いますが、家族によるアンペイドワークへの評価や、地域の助け合いによるインフォーマルなサービスの拡大に寄与するものと捉えて良いのではないでしょうか。もちろん、ドイツにおけるボランティア活動のベースには教会の活動があり、こうした仕組みが即日本の地域で展開できるとは限りませんが、大変興味深い話でした。
もう一点、両国の制度の大きな違いは公費の投入の有無。ドイツの介護保険制度は保険料のみ(公費負担なし)で運営されますが、日本の介護保険制度は、保険料 50% 、公費50%で運営されます。ドイツのように保険料のみで運営すると、その枠内でしか給付を行えません。なので、給付の拡大のためには保険料を引き上げることになりますが、これだと給付と負担の関係が非常にわかりやすい。(高額所得者は公的保険ではなく民間保険を選択することも認められている)
でも、日本のように公費=税金が投入される制度においては、予算の確保のために省庁間や省内の綱引きに晒されるわけでもあり、ある意味不安定。保険料とサービス、負担と給付の関係も見えづらい、という課題も生じます。昨今、公費負担割合を引き上げるべきとの意見も聞かれますが、私はなお慎重に検討すべきと思います。
何れにしても、3年に一度の制度見直しを重ねるうちに、介護保険制度は市民にとってとても解りづらいものになってしまいました。繰り返される給付の抑制に対しては、介護の社会化の後退だという批判が絶えないし、財政が厳しいからと国や自治体政府が市民に「互助や共助」を求めるのも、自治の観点から受け入れがたいものがあります。
細かな改定を続けながら制度を維持している状況ですが、本当はもっと長期的な視点を持って改革議論を深めていく必要があるはずです。
ドイツの制度に触れ、私もあらためて、全世代型の保険制度に転換する可能性や、現金給付の仕組み、保険料と公費負担のバランスなど、さらに深く考察していきたいと思っているところ。ドイツにも、行ってみたいなあ。