「総合事業」利用対象の弾力化を給付抑制につなげてはいけない

10月22日、厚生労働省は、介護予防·日常生活支援総合事業(総合事業)の対象者について、要支援者等に加えて、要介護者についても対象とすることを可能とするための介護保険法施行規則の一部を改正する省令を改正しました。
省令改正に先立って実施されたパブリックコメントの概要説明には、次のように説明されていました。


(引用開始)社会 保障審議会介護保険部会で取りまとめられた「介護保険制度の見直しに関する意見」 (令和元年 12 月 27 日。以下「意見書」という。)において、「現在、総合事業の対象 者が要支援者等に限定されており、要介護認定を受けると、それまで受けていた総合 事業のサービスの利用が継続できなくなる点について、本人の希望を踏まえて地域と のつながりを継続することを可能とする観点から、介護保険の給付が受けられること を前提としつつ、弾力化を行うことが重要」とされたことを踏まえ、所要の見直しを行う。(引用終わり)

厚労省が作成した説明資料(左表)では、「対象者が要支援者等に限られてしまっていることで、 事業が実施しにくい」という自治体の割合として、『訪問A 17.3%、サービスB 31.1% サービスC 21.8% サービス D28.8%』とされています。

このデータが気になり、元データを調べてみました。ありました!
社会保障審議会介護保険部会でも取り上げられていたデータの中に。(*株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所/「介護予防・日常生活支援総合事業及び 生活支援体制整備事業の 実施状況に関する調査研究事業」)
総合事業を実施する上での課題を尋ねています。例えばサービスAについて。確かに「「対象者が要支援者等に限られてしまっていることで、 事業が実施しにくい」という回答が17.3%となっています。が、「実施主体や担い手がいない」は、約3倍の58.7%となっています。(P52)

 


サービスB、サービスC、サービスDも同様に、課題として最も多く挙げられたのは、利用対象が限定的であることではなく、「実施主体や担い手がいない」です。もちろん、これは総合事業に限らず、どんなに制度をいじっても、担い手がいなければ成り立たないのが介護。

『介護予防ケアマネジメントAについては9 割以上の市町村で実施されているが、介護予防ケアマネジメントBおよび介護予防ケアマネジメントCについては 2 割程度の実施となっている。』(P27)というデータもあります。

部会の議論でも、地域の体制整備が十分進んでいないという指摘も多く「介護保険制度の見直しに関する意見」では、弾力化した場合に、「ケアマネジメントを通じて適切な事業の利用が担保されることや国において、利用者の変化の状況や具体的なサー ビスの利用の状況などを定期的に把握·公表することが重要である」との意見も盛り込まれています。

そもそも、なぜ「サービスの利用が継続できない」状況が起きてしまうのかも考えたい。
一体的に提供されていた要介護者への給付サービスを、持続可能性を高めるという美名の元に、介護予防支援を創設し、さらに介護給付より報酬単価が低く抑えられる総合事業を創設したことによってケアの連続性に様々な課題が生じているのではないでしょうか。

挙句、総合事業を担うヘルパーは、これまで要支援者や要介護者のケアを行ってきた資格をもったヘルパーさんという状況で、その方たちが、これまでよりも低い報酬単価でケアを行うという実態があります。
ケア者の裾野を広げると総合事業・訪問サービス(サービスA)を進めてきた横浜市では、2018年4月現在315事業所あった登録事業は2019年度は298事業所と減少しています。どう考えても、スキームとして成り立たっていないと思います。

厚労省は、インセンティブ交付金と連動させ、市町村の通いの場づくりも推進していますが、横浜市では、要支援者の利用は低調です。横浜市の総合事業・通所サービス(サービスB)は、2019年度、延べ55,348人利用があるとされていますが、この数字は要支援者やチェックリスト該当者だけではなく、様々な世代の利用者、ボランティアも含めた数字。要支援者の利用は延べ6,931人で参加率は全体の12.5%です。となると、これを介護保険事業会計のなかで実施すべき事業なのだろうかと首を傾げてしまいます。

今回の見直しでは、総合事業について国が定めたサービス価格の上限を上回る価格設定を行うことも可能とされました。この見直しは、市町村の事業規模にも関わることであり、また、総合事業の報酬と要支援者・要介護者に提供される給付サービスの報酬とのバランスの問題もある思うのですが、それらをどう考え、どう整理されたのかが現時点では全くわからない。

昨年の社会保障審議会介護保険部会の論点の一つが、要支援者に加え、要介護1~2の生活援助サービスを総合事業に移行することをめぐる議論でした。結論は先送りされた形ですが、次回2024年度の改正議論でも引き続き検討されることは間違いありません。今回の介護保険の法の施行規則の変更によって要介護者の総合事業の利用への道はひらかれました。
おそらく、次期改定議論でも給付抑制派は、要介護者の総合事業の利用事例を持って、要介護1・2の訪問・通所サービスを給付から外すべきという主張を展開するでしょう。

私たちは、総合事業の対象者の弾力化が、なし崩し的な給付抑制や、要介護舎の給付の権利が狭められることにつながるのではないだろうかという不安が拭えないのです。
介護認定者は、給付を受ける権利を有するという介護保険制度の原則に立って、介護人材確保を最優先課題として、事業の財源構成の見直しも含めた議論を求めていきます。
11月12日には、厚生労働省との意見交換を予定しています。またご報告します。