市民が決める「住民投票条例」

 横浜市が、カジノ・IR誘致を表明して以来、まちづくりや暮らしに与える影響の大きさに気づき、横浜市が開催するIR説明会に多くの市民が足を運び、すでに市長リコールを求めて受任者を募る運動も始まっています。
 恐らくカジノ・IR誘致に反対だという市民は「少数」ではないだろうと思います。しかし、市長は経済界からは強力な後押しをもらっていると言います。カジノ・IRが世論を二分する問題であることは間違いありません。

 だから、市会では幾度となく「まず広く市民に誘致の是非を問うべきではないか」という提起もされています。それに対して、誘致の是非について「白紙」として選挙を戦った市長が、頑なに「住民投票はやらない」と公言しています。

そんな中で、カジノ・IR誘致の是非を問う住民投票条例の制定を求める直接請求の実施が現実味を帯びています。そこで、カジノを考える市民フォーラムの企画で、武田真一郎さん(成蹊大学教授)に、横浜カジノ計画と住民投票について、徳島の事例を参考にお話いただきました。

まず、あらためて住民投票についておさらいから。
住民投票は、住民が賛否両論に耳を傾けて、より説得的な意見に一票を投じて民意を反映させる制度。当然ですが、選挙の投票のように間接民主制の代表を選ぶ投票ではない、直接手民主的な投票になります。
また、その類型は以下のようになります。
1 表決:ある争点の賛否を問う
2 発案:法律案、条例案を提出して賛否を問う
3 罷免:公職にあるものを辞めさせる。(地方自治法に規定)

なぜ住民投票が求められるのか

 住民投票をめぐっては、2000年代に入り、合併の賛否をを問う事例が激増しました。武田先生は、「最近ではさらに身近な問題へと裾野が広がっている。そのキーワードは環境と財政。住民の関心に議会や行政の意識が追いついていない、このような「間接民主主義の機能不全」の状況を、直接民主制によって是正していく、だから住民投票が求められている」と指摘されました。

徳島市の吉野川可動堰建設の是非を問う住民投票運動
武田先生が深く関わられた吉野川の住民投票運動では、条例制定の直接請求に必要な署名数を集めて市議会に提案されたものの、これを議会が否決しています。しかし、2ヶ月後の市議会議員選挙で、住民投票賛成派が市議会の議席の多数を占める逆転現象が起こり、紆余曲折ありながら住民投票は実施されました。投票の結果、可動堰建設に反対が91,6%を占め(投票率51%)、計画は白紙凍結から完全中止に追い込まれます。
 武田先生は、運動の成功要素をいくつかあげられたのですが、その一つが専門家にも勝る科学的、客観的な考察を展開した市民の力。また、「反対運動ではなかったために市民の反対の意見が高まった」あるいは、「政党色を排除したために政党以上に政治的パワーを結集できた」といった逆説的な分析も強くに印象に残りました。

横浜のカジノ・IRをめぐる住民投票
横浜市の人口は375万人。市会議員は86人、議員1人あたり43,600人もの市民を代表している計算になります。その結果生まれる議会と住民の距離。その距離をどう埋めるかについては、これまでも大都市の課題として認識されてきました。
さらに、市会には2019年の統一地方選挙の時点でIR誘致に「賛成」を表明して当選した市議もいません。これらの状況を考えると、議会の同意という手続きを持って地域の合意とすることは必要ですが、それで十分だとも思えません。賛成の人も反対の人も幅広く意見を表明できる機会をつくることが必要ではないでしょうか。

住民投票は熟慮と参加の絶好の機会
武田先生は、住民投票運動はカジノ反対運動ではない、また、賛成派と反対派が同じテーブルにつくことで議論は深まるのだと言われます。その結果、多くの事例で住民投票の結果に従って政策が変更されている、住民投票は間接民主制を活性化しているのだと。
 武田先生の講演の結びは、「地域のことを一番よく考えることができるのは地域の人々である」というメッセージでした。なんだか聞き慣れたメッセージに肩の力を抜くことができました。怯むことなく直接請求運動に挑んでいきたいと思う。