「子育て支援」と「保育」という区分はもはや通用しない〜ソーシャルワークの視点から考える〜

9月4日、「保育ソーシャルワーク」についての学習会を開催し、日本福祉大学子ども発達学部教授、渡辺顕一郎さんと、NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事長、NPO法人びーのびーの理事長の奧山 千鶴子さんからお話いただきました。
少子化が克服できないまま急速に進む高齢社会。所得格差の拡大という課題もある中で、家族のありようも変化を続けています。渡辺先生は、こうした子どもを取り巻く社会状況を捉えて、ソーシャルワークの必要性や、予防的支援の意味合いを持つ地域子育て支援の重要性を説いてくださいました。また、奥山さんからは、地域の子育て支援拠点で実践される多機能型の可能性について、昨年実施されたアンケート調査結果も踏まえてお話いただきました。
その上で、渡辺先生は「子育て支援」と「保育」という区分はもはや通用しない」と明確に述べられました。つまり、就労家庭を対象とした保育事業と、在宅で子育てする家庭を対象とした子育て支援事業の線引きはできないよということ。これは、私にとってはストライクの指摘。期待を込めて「境目がなくなりつつある保育と子育て支援」というレポートを発信してからすでに8年。

例えば「一時保育」と「一時預かり」。(ここから保育、預かりとややこしくて恐縮ですが・・・)
前者は認可保育所で一時的な預かりをする事業。→認可保育所の入所要件に満たない短時間勤務の人や、緊急やリフレッシュという要件で利用できます。
後者は認可外保育施設で一時的な預かりをする事業。→横浜市における事業名は横浜市乳幼児一時預かり事業

認可保育所での一時保育の取り組みが広がらない中で、主に入所要件の縛りのない認可外保育所が「働いていても働いていなくても」という多様な保育を実践する中で、徐々に一時保育の重要性が認識されてきました。そんな中で、横浜市乳幼児一時預かり事業も、保育所ではなく認可外保育施設が担い手となって始まったものだから、在宅家庭への支援という位置付けで、保育と区分されています。
私が参加しているNPOでは、認可保育所での一時保育と横浜市乳幼児一時預かりの二つの事業をやっていますが、利用ニーズも保育内容も変わりません。

人口減少社会を迎え現役世代の労働力の確保という観点からも、女性が活躍できる社会、多様性を尊重する社会への転換が言われています。認可保育所の入所要件(週3日16時間以上の就労)をラインとして、保育と子育て支援が区分されるのはナンセンス。一時保育は、多様な暮らし、働き方を支える事業に他なりません。
奥山さんのお話は、子育て支援事業から壁を超える可能性を感じられるものでした。「子育て支援は子育て全般の生活支援であるべきで、子育て支援はモデルチェンジの時。過渡期を迎えている」とおっしゃいました。例えば、地域子育て新拠点や親と子のつどいの広場につながりを求めているのは在宅子育て世代だけなかく就労世帯も同様で、土曜日の拠点や広場はウィークデーとは異なる利用者が大ぜい集まっているそうです。

横浜では市内18箇所の地域子育て支援拠点で利用支援事業(*1)を実施していますが、この事業もソーシャルワークを進める上でも重要なサービスであることも確認できました。今後、各自治体で利用者支援事業が広がることで「子育て支援」と「保育」という区分は存在しないこという理解が広がっていくのだと思います。
ソーシャルワークを実践するということは、当事者を中心に置いて、こうした壁を無くしていく作業に他ならない。
私は、ソーシャルワークの入り口にも、出口にも活かせる一時保育というカードを使って壁を壊していきたいと思っています。

市区町村には、2020年までに子育て世代包括支援センターを設置することが求められています。また、子ども・子育て支援事業計画(第2期)の策定に係るニーズ調査も実施され、子ども・子育て会議での本格的な議論も始まります。こうした動きも注視しながら、子育て世代を包括的に支援する体制づくりに向けて提案を続けます。
 
関連レポート なぜ保育・子育てにおいてソーシャルワークが必要とされるのか

利用支援事業(*1):各区の地域子育て支援拠点に専任スタッフ(愛称「横浜子育てパ ートナー」)を配置し、子育てに関する個別相談を実施。家庭の状況やニーズに合った支援制度等の案内、選択の支援、関係機関への仲介等のほか、地域で子育て家庭を支えるための関係機関や支援者との地域連携等を行うとされている。