「新時代開拓のための経済対策」というのであれば
11月19日、岸田内閣における新たな経済対策が閣議決定されました。それは、様々な現金給付や企業支援も盛り込まれ過去最大規模のものでした。
財政支出が拡大する一方で、対策効果は未知数、財源確保の具体策が見えないなどの批判はあるものの、保育士・看護師・介護士の処遇改善策が盛り込まれたことは率直に評価したいところです。
「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」46ページには以下のような記述があります。
① 看護、介護、保育、幼児教育など現場で働く方々の収入の引上げ等 看護、介護、保育、幼児教育など、新型コロナウイルス感染症への 対応と少子高齢化への対応が重なる最前線において働く方々の収入 の引上げを含め、全ての職員を対象に公的価格の在り方を抜本的に見 直す。民間部門における春闘に向けた賃上げの議論に先んじて、保育 士等・幼稚園教諭、介護・障害福祉職員を対象に、賃上げ効果が継続 される取組を行うことを前提として、収入を3%程度(月額 9,000 円) 引き上げるための措置を、来年2月から前倒しで実施する。
「他の職員の処遇改善に充てることができるよう柔軟な運用を認める」という注釈が加えられた意義も大きいのではないかと思います。
閣議決定に先立って開催された公的価格評価委員会に出された「職種別平均賃金」というデータを見れば、対策の必要性は一目瞭然でした。
ヘルパーの増員は最優先課題
コロナ禍で、社会を支える仕事として介護従事者にも光が当てられました。 しかし、こうした人々、とりわけ高齢者の在宅生活を支える介護従事者の多くが、非正規 や低賃金の不安定な立場に置かれてきました。
2020年度のホームヘルパーの有効求人倍率は 14.92と深刻な人手不足が続いており、私たちの周辺でも60代、70代のヘルパーが現場を支えています。東京商工リサーチによると、2020年の「老人福祉・介護事業」の倒産は118件で過去最多を更新しており、業種別では「訪問介護事業」が半数近くを占めたことが報告されています。
横浜市高齢者実態調査(2019年度)では、約7割の高齢者が「できるかぎり自宅で暮らす」ことを望んでいます。様々なリスクを抱えても安心して在宅で暮らし続けるために、訪問ヘルパーの増員は最優先課題です。私たちは、繰り返し、ヘルパーの基本報酬を引き上げることことを提案してきましたが、横浜市からは、「市としても国に要望を行なっている、国の動向を注視したい」といった回答をもらってきました。結果、ご覧の通り介護分野の平均賃金は、全産業平均賃金よりもかなり低い水準にとどまっています。
近づく限界
介護は財政的にお荷物なのでしょうか。いや、例えば子育てや介護をしながら仕事を続けるためのセーフティネットであり、成長産業ではないでしょうか。しかしながら、最もニーズの高い在宅生活を支えるケアワーカーがいない。ワーカーが確保できなければ依頼があってもヘルパーを派遣できない。また、経常経費が保障される報酬体系にはなっていないのだから、ある程度の規模がなければ事業の運営は難しい。こんな議論をもう10年以上続けていますが、そろそろ限界が近づいている。
横浜市では、2025年には65歳以上の高齢者人口が約100万人となることが予想されています。世帯の単身化も急速に進み家族機能は縮小化し続けています。また、新型コロナウ イルス感染症に限らず、今後も気候変動とグローバル化による新たな感染症によるパンデ ミックが起こるリスクも否定できません。
全国最大の高齢者人口を抱える横浜市には、身近な政府・自治体として、この機を捉えて、現場とともに国の議論をリードする取り組みに期待したいところです。ということで、11月18日には、生活クラブ運動グループ・横浜ユニット連絡会から横浜市に政策提案を行いました。
2021年度は、3年に一度の介護報酬改定が行われたところで、通常ならばこの時期に賃金アップは期待できないところだったはず。にも関わらず緊急対策が講じられるわけですから見過ごすことのできない課題であることは間違いない。2024年の次期改定も見据え基本報酬の引き上げに繋がる議論を進めて欲しいものです。財源論がネックになるのであれば、首相が言う「成長と分配の好循環」に向けて、封印した金融課税の強化と言った税制改革にも着手し、格差を是正し中間層を拡大していくしかないのではないでしょうか。