コロナ禍で子育ての社会化を考える

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ピッピ親子サポートネットで取り組んだ「コロナ禍における保育園利用自粛要請時の家庭状況調査」より、パンデミック下のケア責任の配分をめぐる調査と基礎分析を行った研究論文「コロナ禍で子育ての社会化を考えるー横浜市保育所利用世帯の実態分析から」が横浜国際社会科学研究(横浜国際社会科学学会)に掲載されました。

調査にあたっては、多くの保護者の皆さんが声を寄せてくださいました。相馬直子さん(横浜国立大学教授)には、調査の実施及び分析においてご指導をいただき、論文としてまとめていただきました。心より感謝申し上げます。

緊急事態宣言期間における保育利用の自粛
2020年4月、新型コロナウィルス感染症拡大による緊急事態宣言に伴い、保育所の利用自粛を求められた保護者は、小さな子どもを抱えながら日常生活と仕事を自宅で行なわざるを得なくなりました。保育現場では、子どもや家庭、仕事等への影響を少なからずキャッチし、その不安や困りごとに寄り添うために何ができるのか迷い悩み、その想いは保育所の役割そのものへの問いとなり広がっていきました。
自粛要請にしたがって、保育所を休ませた親は83.7% でしたが、ひとり親世帯では保育所を通常通り利用した割合が、夫婦世帯よりも2 倍高いなど夫婦世帯とひとり親世帯では自粛要請時の行動に大きな違いがありました。
調査・分析を通じ、私たちもあらためて、ジェンダーギャップや、非正規労働者が直面する不安定な就労環境、シングル家庭の抱える困難等に気づかされました。

非正規職やひとり親世帯への社会経済的影響
「仕事を減らした」「仕事がない状態だった」割合はいずれも非正規が多く、心理面で見ても、「漠然とした経済的不安」「仕事の減少」を、「気がかりなこと」として回答した非正規の女性の割合も高くなっています。求職中の非正規の母親の就職活動が難航する事例や、非正規の母親が会社側から就業時 間の短縮を打診された事例、退園を避けるために急いで就職を決めた非正規 の母親が退職,転職する事例も報告されています。非正規職にひとり親世帯の割合も高く、ひとり親世帯で「今月のやりくり」を「気がかりなこと」として挙げた割合が突出しています。「自分の精神的な不調」の割合も他より高く,困難な状況がうかがえます。

仕事への影響
まず「仕事がない状態だった」のは、ひとり親世帯(23.8%)で 顕著に高く、休暇取得や在 宅ワーク以前に、雇用状況自体に大きな影響が及んでいました。「出社して就労の割合は男性(49.7%)、女性(27.2%)と男性の方が高く、「必要時に出社」の割合も、男性(25.5%)、女性(17.9%)と男性の方が高い。一方、「特別休暇や有給休暇を使用した」割合は、女性(22.5%)、男性(8.1%)と女性の方が 3 倍高く、女性の方が休暇を取得して仕事を調整していることがわかります。
自由記述欄でも女性に目立った内容は、「夫の在宅勤務中に子どもが邪魔しないように気を遣った」「子どもと過ごすことが大変だった」「家事に追われて大変だった」など、家庭内にケアが差し戻された実態が浮き彫りになりました。

育児・家事分担への影響
夫婦での育児分担を,平等型(妻=夫),妻 メイン型(妻>夫),夫メイン型(夫>妻)の 3 類型に分けると、女性は平等型(妻=夫)へと変化したと感じている層が1 割弱増えています。(ただし雇用形態による特徴もあり)
男性は平等型(妻=夫)の割合に大きな変化 はない一方で,夫メイン型(夫>妻)が 1 割増 えています。女性側は平等型(妻=夫)が 1 割増え、男性側は「自分の方が育児をしている」と とらえる夫メイン型(夫>妻)が 1 割増えており、育児分担の変化に対する男女間の認識の違いが表れています。

他方で,家事分担は女性の場合,平等型(妻 =夫)が若干増えているものの、男性の認識を見ると大きな変化はありません。 平等型(妻=夫)の割合が増えたものの、妻メ イン型(妻>夫)が 60% 台後半から 60% 台前半へと緩やかに減少したにすぎず、依然として 家庭内の性別役割分業が根強いことを示しています。

こうした育児分担・家事分担の変化の中で、「子どもにつらくあたった」、「夫婦間の葛藤や衝突」が増えたというマイナスの感情を持つ割合は女性が高い一方で、「子どもとの触れ合いを楽しむことが増えた」というプラスの感情を持つ割合は男性が高くなっています。コロナ禍が男性を家庭に戻し,父親としての関わりを増やす効果があったと言えるのではないでしょうか。

新しい保育への再構築
本調査とその分析は、新しい社会経済的な脆弱層への支援策はもちろんのこと、withコロナの時代に求められる働き方や暮らし方の見直し、そして当然必要となる多様性を軸に新しい保育への再構築の必要性表しています。
折しも、待機児童のピークアウトも見えてきた今、主に就労支援(特にフルタイマー)として保育を行なってきた保育所は否が応でも変わらなければならない。家庭、地域と協働する力が試されていることを強く認識しています。