訪問介護、通所介護を給付抑制のターゲットとすることへの違和感

2018年の介護報酬改定に向けた議論が本格的にスタートしました。
4月26日に開催された社会保障審議会・介護給付費分科会では、「生活援助サービス」について、人員基準を緩和し報酬を引き下げる等の見直しの方向性も打ち出されました。審議会に先立って開催された財政制度等審議会でも、社会保障制度の改革の焦点の一つとして介護報酬改定に言及されています。

社会保障審議会・介護給付費分科会資料


目を引くのは、前回2015年度の改定の影響として「介護サービス事業者の収支状況を見ると、多くの介護サービスで収支差率が低下しているものの、プラスを維持しており、特に、訪問、通所などの在宅サービスの収支差率は比較的高水準にとどまっている。」という指摘。次期改定でも、訪問介護、通所介護を給付抑制のターゲットとしていることがわかります。さらに、「機能訓練などが行われていないような場合には基本報酬の減算措置も含めた介護報酬の適正化を図るべき。」という方向性も記されています。

平成28年度介護事業経営概況調査結果よりピックアップ、作成


財政制度等審議会(財務省)が取り上げたデータは、「平成28年度介護事業経営概況調査結果」から抜粋されたものですが、調査結果を読み込んで見ると、訪問、通所の給与水準は、他のサービスに比べて低く、給与費率も非常に高い、また、ヘルパー1人当たりの仕事量を増やすなど様々な経営努力により事業を維持していること等がうかがえます。
この間、訪問介護や通所介護事などを中心に介護事業所の倒産が急増していることも報じられてきました。(引用:2016年(1-12月)「老人福祉・介護事業」の倒産状況/日経新聞)各加算の算定要件で常勤の有資格者の配置が求められても、要件をクリアすることが難しい状況も生じていると思われます。「収支差率が高い」とする財政制度等審議会のデータの切り取り方は、余りにも恣意的に見えてしまいます。
介護保険制度をめぐっては、2006年には「予防・地域密着型」、2012年度には「地域包括ケア」と次々と新たな概念が打ち出されました。地域包括ケアの目玉となるはずの介護予防・日常生活支援総合事業の本格実施を前に、今国会では介護保険関連法の改正案が成立する見通しで、その法案には「共生型サービス」を新設することも盛り込まれています。(共生型サービスとは、介護だけでなく障がい福祉、子育て支援、生活困窮者支援などの垣根を超えたサービスを提供することをめざすものとされています。)その時々に描かれた「概念図」は、システムとして構築され機能してきたのか、改革を重ねた結果 、人々は将来への安心を手にできたのかといったことを、改革の旗を振った人たちは検証できているのでしょうか。
財務省は、「供給が需要を生む構造の排除」も要請していると言います。供給が需要を生むというのは、待機児童問題にも重なるような構造。待機児童数については、データを深く読み取ろうとする機運があるけれど、介護保険制度はどうでしょうか。「改革=給付抑制」の流れの中で、その根拠として示されるデータにも厳しい目を向け、議論を注視していく必要があります。
現在、私は、デイサービス(介護保険事業)の送迎ボランティアを続けている。「いいお天気ね」という挨拶から1日が始まるAさん。「うちのお嫁さんは本当に優しいの」が口癖のBさん。「こうして迎えにきてくれるから出かけられるのよ」というCさん。いつもいつも同じ会話でその先にはなかなか進めない。それでも、送迎車から見える季節の花を「綺麗ですね」と追いかける。レスパイトデイサービスを必要としているご家族の気持ちが伝わってくる日々。
ヘルパーステーションにも毎週足を運んでいる。1:1の生活援助に入るヘルパーからは、施設入居とのギリギリのラインで在宅を支えている事例を多く聞く。プロのサービスだ。レスパイトデイも訪問介護も高齢者が在宅て住み暮らし続けるために重要なサービスであることを現場の事例から伝えていきたいと思っている。