「さくらんぼの実践」17,795時間の個別サポートを検証する

橋本笑穂さん(左)伊藤保子さん(右)

橋本笑穂さん、伊藤保子さん


24日に開催した政策フォーラムで、横浜市瀬谷区で活動する特定非営利活動法人さくらんぼの橋本笑穂さん、伊藤保子さんから「子育て支援・家族支援のための個別サポート10年の事例検証のまとめ」を報告いただきました。さくらんぼが、10年間に実施した派遣型個別サポートの活動時間は17,795時間に及びます。家庭に入って個別支援を行うことの有効性や課題を整理し、子どもの貧困問題解決に向けた家族支援のあり方を考えるために、これら支援事例の検証作業が進められました。
瀬谷区は生活保護率、ひとり親世帯率、若年出産率、生活保護率が高い地域です。地域密着で様々な子育て支援・家族支援を行うなかで、2005年にさくらんぼ独自事業として個別サポートを開始します。現在は、産前産後ヘルパー派遣事業、ひとり親家庭等日常生活支援事業、育児支援ヘルパー 派遣事業、養育支援ヘルパー 派遣事業、里親養育援助事業、障害者総合支援法居宅介護事業と、数多くの公的サービも担っています。
こうして並べてみると、たくさんの子育て支援・生活支援制度が用意されているように思えますが、事例検証からは「慢性的な困難を抱えたひとり親家庭を支援できる仕組みがない」、「複合困難を抱えた家庭を支援する仕組みがない」、「リスク家庭の捕捉が属人的に行われている」といった課題が提起されています。
例えば、ひとり親家庭等日常生活支援事業は「生活環境整備の期間の一時的な支援」との位置付けです。生活再建に2~3年間程度かかる事例も多いのに、利用期間は原則1年、利用回数上限は月10日、年240時間までとされます。保育園送迎など毎日の支援が必要なケースや、母親の精神疾患など慢性的な育児困難を抱えているケースには対応できません。国の子どもの貧困対策会議において、ひとり親家庭等日常生活支援事業の定期的な利用を可能とすることや、担い手を拡げるためにヘルパー資格の要件緩和を進めるといった制度の見直しが提言されたようですが、そもそもこのサービスは余り知られていない。伊藤さんいわく「引き出しの奥の箱に入れてしまってある」状態。
また、困難家庭の多くは「複数の困難」を抱えており、親自身に支援が必要な場合が多いと言います。 “困難”の内容は、母親の病気やDVなどの母子衛生だけではなく、祖父母の介護、兄弟の障がいのケア、日本語や日本文化に壁があるなど多岐にわたっています。親の問題を取り扱う際に子どもに関する情報だけが、共有されず子どもの問題が取り残されてしまう事例もありました。
一方で、産前産後ヘルパー派遣事業の利用をきっかけに接点を持ち、その後の支援に繋げたケースも多くあるそうです。現場の提案で、2015年度からは、産前産後サポートに入った事業者が市に提出する報告書に母親の状況をチェックする欄も設けられ、気になる家庭については区にも連絡するしくみになりました。
さくらんぼは、地域子育て支援拠点の運営法人でもあり、ひろばや保育園、学童保育も運営する法人。伊藤さんは、常々「子どもの生活の後ろにある大人の生活を支援することなしには、こどものWell beingを保証できない、またそのために多機能の連携が必要とされている。」と話されています。私も今回の検証作業に関わり、さくらんぼのミッションをより深く理解することができました。政策制度提案に向けて今後も連携し活動を進めます。