簡易宿泊所の火災事故から考える〜高齢者福祉の視点を強化したコミュニティモデルを〜

 先日、川崎市で発生した簡易宿泊所の火災により10人の方が亡くなられ、身元のわからない方も多くおられるとのこと。本当に痛ましい火災事故となってしまいました。全焼した2棟の簡易宿泊所の居住者は74人で、そのうち70人が生活保護受給者であったとそうです。本来、簡易宿泊所は一時的な居場所であり、より安定的な居場所へ移行できるような支援は必要ですが、それでもなお、簡易宿泊所にとどまる事を選択せざるを得ない人も多くいらっしゃるのだと思います。すでに建築基準法違反の可能性も指摘されていますが、貧困や社会的孤立といった福祉的課題も見逃せない問題です。

横浜市の寿地区も簡易宿泊所が集中しており、現在120を超える簡易宿泊所があります。私は、昨年、生活困窮者支援に取り組まれているNPOの方と寿地区を歩き現状を伺う機会を得ました。
かつては、日雇い労働者のまちと言われてた寿地区も、現在は生活の維持が困難な高齢者、障がい者が多く居住しています。ヘルパーステーションやデイサービスなど介護事業所も軒を連ねており、高齢化が進む町の課題が映し出されています。そんな地域で支援者がつながり活動されている様子や、生活館の学童保育のような大切な居場所がつくられていることも伺えました。
身寄りのない高齢の方たちが、長年暮らした地域を離れられないという状況を考えれば、簡易宿泊所の環境改善を図りながら、高齢者福祉の視点を強化したコミュニティモデルを模索していくことも考える必要があるのではないでしょうか。

 生活に困窮する高齢者の住まいの確保が困難な一方で、全国には約820万戸の空家があり、20年後には3軒に一軒が空家になると言われ、空き家対策特別措置法も施行されたところ。なんともアンバランスな話ですが、「特定空き家」に指定される前段階で、福祉的に活用する方策も真剣に考えていくべきだと思います。 
寿町総合労働福祉会館再整備基本計画(2014年4月策定)より抜粋
・寿地区における簡易宿泊所宿泊者が地区人口に占める割合は7割以上(平成 24 年現在)であり、そのうち8割以上が生活保護受給者です。
・簡易宿泊所は一室あたり平均約 3.3 畳で、シャワーなどの入浴設備のないもの が半数以上を占めています。ただし、近年の地区内の高齢化に応じて、車いすや介護に対応した設備や、シャワー設備を持つ簡易宿泊所も増えています。 
・簡易宿泊所宿泊者のうち 60 歳以上の割合は、平成元年では約 13%でしたが、平成 24 年には約 67%となっています。また、簡易宿泊所宿泊者総数は平成元 年以降 6,100~6,700 人の幅で横ばいとなっていますが、平成元年から平成 24 年までの 60 歳以上の宿泊者数は、約 5.5 倍の増加をみせています。
・寿地区人口のうち男性が占める割合は平成 10 年以降、一貫して約 85%とな っており、男性に偏った人口構造となっています。
 
空き家対策特別措置法
倒壊や衛生上の問題などがある「特定空き家」を自治体が決め、除去や修繕の指導、勧告、命令できるようになる。勧告に従わないと、住宅が建つ土地への固定資産税の優遇がなくなる。また、命令に従わないと、自治体による強制撤去も可能になる