介護職員の処遇改善の議論のゆくえ

厚生労働省から「介護職員処遇改善交付金」を今年度末で廃止する方向性が示されました。
そもそも介護処遇改善交付金の設置目的は景気対策であり、10兆円超の震災復興費が必要な状況下で厚生労働省の来年度予算の概算要求にも入っていなかったとのこと。
2011年介護事業経営実態調査の結果も公表されていますが、サービス別の収支は概ね黒字であり、前回2008年の調査と比べると多くの事業で収支差率が改善しているとの報告もなされています。

介護職員処遇改善交付金に変わる新たな待遇改善策として、介護報酬に処遇改善加算を新設する案も示されていますが、そうなると月額保険料の上昇に繋がるであろうし低所得者への対策も必要になってくると思います。加算方式は、事業者にとっては事務量が煩雑で、安定的な収入ではないし、廃止となったデイサービスの食事加算や送迎加算のように梯子を外される可能性もあります。

労働団体や経済会などからは、「労使間の問題だ」との指摘もありますが、一部施設サービスを除いて介護従事者はパートや非正規職員が多数を占めています。103万円、130万円の壁、すなわち、処遇改善がはかられるとワーク時間を抑制してしまうという問題も生じます。こんな状況で労使協議は現実的ではありません。

現在、私の友人たちが労働裁判を戦っていますが、介護従事者による労働組合の結成の事例も少なく、人を雇うという知識や経験の浅いNPOとの裁判は多くの困難があります。労働裁判に関わってきた方達からは、NPOや社会福祉法人に関する労働争議の解決の難しさも伺います。
「労働者の賃金に国が介入すべきではない」との主張もなされていますが、法律や政省令に縛られた介護保険制度は、保険者とされている市町村にもほとんど裁量権がない公的制度であり、賃金に特化し事業者責任とするには無理があります。

処遇改善策を継続しつつ、税制や社会保障のあり方をも見直す作業が必要性ではないでしょうか。そういった議論やインフォーマルサービスに象徴される地域づくりを含め、介護をとりまく様々な問題を包括的に捉えることが介護の社会化の一歩となると思います。