「ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録」依存症ビジネスを考える
ギャンブル依存症は全国で536万人
ヌジュミの田上啓子さんから「読んでみて」と手渡された「ギャンブル依存症からの生還 回復者12人の記録(発行:NPO法人ビッグイシュー基金・ギャンブル依存症問題研究会)」をようやく読み終えました。ギャンブルで借金まみれになり自己破産、家庭崩壊、果ては強盗、売春、横領、自殺未遂。「あなたは病気です」「依存症です」と言われ「ほっとした」「助かった」と安堵する。
ギャンブル依存症は全国で536万人と推計され、有病率は4.8%(男8.7%,、女1,8%:2013年調査データ)、列記された諸外国の有病率「イギリス0.5%、スペイン0.3%、スイス0,8%、スウェーデン0,6% 、カナダ0.5%、米国0,42%、マカオ1.8% 、シンガポール2.2%」と比べて、突出して高い数字です。
パチンコは娯楽?
10年ぶりにお会いした田上さんから聞く話は、以前よりも一層問題の深層を捉えたものでした。「パチンコ・スロットは、法的にはギャンブルにみなされていないですよね。じゃあ、パチンコ・スロットは健全な娯楽?ギャンブルでしょう。パチンコ・スロットは全国に1万2000館、コンビニのローソンよりもたくさんある。ギャンブル広告は無制限、テレビ でバンバン流れてるでしょ。韓国ではパチンコが禁止されましたよ。だから今、九州に韓国から大勢パチンコしに来てます。世界の3分の2の「台」が日本にあるんだから。アメリカじゃあスロットは特定のエリアにしかないです。パチンコ屋の中にATMが設置されている国は日本くらいじゃないかと思いますよ。」(田上さん)
刑務所じゃ治療はしないです
「ギャンブル依存症は生活習慣病のようなもの。そういう環境に置かれて発症します。やめ方がわからない、感情の処理方法がわからない。自らコントロールできない病気です。性格や、意思が弱いとかいう問題じゃないんです。刑務所じゃ治療はしないですよね。教育によって抵抗力をつけることが必要なのに」と田上さん。確かに誓約書を書いただけで、回復のためのプログラムもなく社会へ戻すというのはナンセンスだろうと私も思います。
同じ経験を持った女性が寄り添う
ヌジュミは、女性のギャンブル依存症者を対象に回復支援を行うNPO。現在は、横浜市の地域活動支援センター(精神障害者地域作業所)としてデイサービス事業を運営されています。通所が困難な女性には近隣のアパートの紹介も含めた生活支援、金銭管理を行います。利用者の多くは区の生活支援課(旧保護課)からの紹介だそう。これまでの修了者は15人、うち10人が自立できたとのこと。田上さんは、繰り返し自身がギャンブル依存症の深みで苦しみ、その後回復されたことを語られます。「あなたはいいわよね、やってないでしょ!と言わせないのよ」と。
一度たくあんになった脳みそは、二度と大根にはもどらない
12人の記録を読み終え、私は「大根にはもどらない」の意味を理解しました。回復は可能であるけども治療は生涯続くということ。誰かを依存症状態にしてお金儲けができる、そんなことをいつまでも野放しにして良いわけないし、ギャンブル依存症が引き起こす様々な問題に蓋をしたまま経済振興策としてカジノ解禁を進めるような動きも危惧します。
ギャンブルが始まるのは20歳前後。まずは、アルコールや薬物、危険ドラックなどと同様に、若い世代に向け予防教育を行うべきだし、依存症の早期発見、早期治療、回復支援というプロセスを後押しする制度も必要です。
「私は自助グループの回復者です。」と堂々と言える社会になってほしい
これは、田上さんの言葉。米本昌平さん(ビックイシュー基金副理事長)は、本報告書あとがきの中で、ギャンブル依存症の研究調査を通じて「問題は極めて深く、横に広がっていることに気づいた。にもかかわらず、依存症対策のための施策立案に寄与することをはっきり意図した研究調査が大変少ない」という課題ととともに、当事者が「外に向かって語る」ことの重要性も指摘されています。
家族や関係者を巻き込んで、暮らしが壊れていくさま、深い闇に落ちていった過去とそこからの生還。重たくて読み進むのも備忘録を記すのにも時間がかかってしまいましたが、率直に語られた12人のみなさんや、田上さんを始め支援者として関わってこられた方々のお話には多くの示唆がありました。