介護保険制度にはケアラー支援の視点がないのか?

「介護保険にケアラー支援の視点がない」といった意見を聞くと、首を傾げついついナナメな態度になってしまいがちな私です。

なぜなら、今ある制度を当事者とケア者のために使いこなす努力をされている多くの事業所を知っているし、私自身も高齢者、障害者の介護や保育の現場でレスパイトケアや家族支援を重要な仕事のひつとして認識しているからです。

母親のデイサービスの利用が入り口になって、介護者である子どもの食支援や就労支援に取り組んで来るケースもあります。ケア者である息子の暮らしが成り立たないと母親の生活も守られない。育児支援ヘルパーや一時保育、計画相談支援事業などで繋がるケースでも、家族だけでは到底担いきれないケアをマネージメントしていくことは多々あります。

だから、一概に「社会保障制度にケアラー支援の視点がない」とは言えないと思うのです。

もちろん、より多くの専門職がケアラー支援の視点を持つことは必要だし、ケアが十分届くようケア者の裾野を広げることは急ぎ進めなければなりません。とにかく介護人材はどうやっても増えないのだから、全国で進むケアラー支援条例がその後押しとなるなら大歓迎です。神奈川県の動きにも注目しています。でも、介護保険制度の地域支援事業にケアラー支援を突っ込むようなことだけは避けたい。
ヤングケアラーという視点から考えれば、やはり教育現場での気づきや、適切な支援に繋ぐ意識が大事で、福祉制度への理解、介護保険制度で言えば、相談の入り口として、教員にはケアマネジャーもしくは包括支援センターの存在くらいは知っておいて欲しいと思います。
12月12日に開催されたケアラー支援をめぐるシンポジウム(主催社会福祉法人いきいき福祉会)は、外国につながるヤングケアラー当事者の報告を聴く貴重な機会でもあったのですが、彼女たちは明確に経済的ケアと言語的ケアの必要性を訴えていました。
残留孤児3世で10歳の時に来日し大学生となった天野萌さんは、今回の報告を契機として、自身の母親がヤングケアラーとして行っていた祖父母や姉夫婦へのケアの実態も掘り下げ、「20年前も今も何も変わらない」と言います。
「自分が保護者になる」と表現されたように、彼女は、中学生の頃から、父・祖父母の病院の付き添いや、外部との連絡 、書類記入手伝い、買い物と、様々な言語的ケアを続けています。
天野さんがケアすることのメリットに挙げた「年齢の割に生活全般に対して理解が深い 、忍耐力がある 」という表現からは、長期にわたって家族とその暮らしを守ってきた彼女の自負が伝わってきます。一方で、デメリットとしてあげた「断れない」という言葉には、家族との強い結びつきも含めた「しんどさ」が詰まっているようでした。
だからこそ、福祉の現場ではレスパイトに拘りたい。それは子育てや介護の社会化に直結するし、家族を支援するという理念はそれぞれの制度の根幹に存在していると思うのです。