「下りてきた」総合事業、どうも上手くいっていない〜円卓会議報告〜

明日25日、安倍首相は、衆議院の解散を表明するとされています。報道によると、消費税率の10%引き上げに伴う増収分の使い道について、幼児教育や高等教育の無償化に充てるなど社会保障の充実を訴える考えだそう。しかし、これまでも社会保障と税の一体改革で会保障の充実・強化を掲げ、段階的な増税を進めてきはずです。実際は、増収分の財源は財政健全化という名目で借金の穴埋めに使われてきてしまいましたが、これを見直しますというのであれば、歓迎するし、より具体的な施策を提示してほしと思います。

急速な進む高齢社会を前に介護保険制度は給付の抑制と報酬引き下げを繰り返し、今や地域の助け合いで乗り切れという掛け声が響いていますが、そのかけ声に応えられない状況も見えています。介護保険の保険者は自治体です。市民の暮らしの近くにある政府は、もう少し独自の視点で施策を展開すべきではないでしょうか。こうした思いを持って、私は横浜ユニット連絡会(*1)に参加し、横浜市の地域福祉施策について市民政策提案を続けています。今年も、19日に横浜市の担当課と意見交換しました。

横浜ユニット連絡会(*1):横浜市内で活動する生活クラブ運動グループ(横浜北生活クラブ生協、横浜みなみ生活クラブ生協、ワーカーズ・コレクティブ、NPO、神奈川ネットワーク運動などによる福祉ユニット)


円卓会議でまず訴えたのは、訪問介護やデイサービスなど在宅生活を支えるサービスの充実について。すでに、ヘルパーの資格要件を緩和して報酬を引き下げた新たな訪問介護サービス「横浜市訪問型生活援助サービス」が始まっています。この事業に参入を表明し指定を受けた事業所は、今年9月の時点で 市内817事業所中304事業所(34%)だそう。サービス実績は166件(6月実績)にとどまっています。一方、現行相当(緩和型でない)のサービス実績は12000~13000件あるとのこと。国もガイドラインを改定し、2018年度以降も現行相当のサービスを提供して良いことにしたようです。基準を緩和したサービスについては、どこの自治体もあまり上手くいっていないということでしょう。
デイサービス事業について、市は、「事業所の減少傾向はない」と言っていますが、小規模デイサービスを抑制していく方向の中で、報酬が大幅に引き下げられ撤退を余儀無くされる事業所も出てきています。今増えているのは機能訓練特化型デイサービスで、トレーニングマシーンなどを活用した半日型のサービス。半日型のサービスでは入浴や食事の提供はほぼありません。介護度の改善だけでなく、日常生活を維持・継続できているその状態も評価されるべきであって、在宅生活を続けていくために食事の提供や衛生状態を保つたためのサポートは必要だと思います。
もう一つのテーマは、介護に関わる処遇改善について。「 処遇改善加算 」は、介護サービスに従事する介護職員の賃金の改善にあてることを目的に事業所に給付されます。様々対象要件が定められていますが、介護職のみ対象とされ事務職は対象外とされるなど、事業所内に賃金格差を生む事や、利用者負担が発生すること、また、恒久的な制度ではないので将来が不安などの理由で加算を申請しない事業所もあります。
この制度について、横浜市が実施した高齢者実態調査では、職場で行ってほしい処遇改善として、ヘルパー、ケアワーカーともに「給与表の改定による賃金水準の引き上げ 」(1位)「定期昇給の実施」(2位)を挙げていますが、実際に行われている賃金改善は、「一時金として支給」が最も多く、次いで「毎月支給される手当として支給」。希望に添う形にはなっていません。
私たちの指摘したことについては「市としても把握できている。ただ、処遇の改善は必要」との見解を聴きました。もちろん処遇は改善すべきです。ただ、今の処遇改善加算制度は、上記のような課題とともに、事業所の経営のうち給与にのみ介入するもので、事業所の経営の安定化に資するものではありません。基本報酬の見直しで処遇を改善することが本筋だと思います。

高齢者実態調査報告には、地域包括支援センターの相談支援業務の課題として「制度改正が複雑・頻繁なことから利用者への説明が追いつかない」という回答が6割を超え、「制度改正が複雑・頻繁なことから職員の習熟度をあげるのが困難」という回答も約3割といったデータもあります。今年は、生活クラブ生協が実施したアンケートで、「介護保険サービスに関して困ったこと」の1位に「制度がわかりづらい(59%)」が挙げられたことも伝えました。
こういう状況を知ると、これまで繰り返し聞いてきた包括支援センターの存在を周知するとか、毎年介護の日に記念フォーラムを開催するとか、そういうことで市民の理解を深めてますというような話ではないなあとつくづく思います。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「わかりにくい」から利用者・家族からは制度について声があがらないし、「高齢者が増えて財政が厳しい」と言われれば、それ以上の議論ができない状況も生まれている。地域保険福祉計画に位置づけて自治体の独自制度として実施すべき事業まで介護保険制度の枠組みでやるのはおかしいですよねというような問題提起をしてもなかなか伝わりづらい。
例えば、措置制度を引きずっている特別養護老人ホームにおける給付を介護保険制度から切り離せば、サービスはシンプルになり、会計規模も大幅に縮小するだろうし、負担すべきコストも今よりは意識できるのではないかなというような議論もしてみたいとは思います。
とにかく2015年度の制度改定で自治体に「下りてきた」総合事業=「市町村が中心となって、地域の実情に応じて、住民等の多様な主体が参画し、多様なサービスを充実することで、地域で支え合う体制づくりを推進し、要支援者等に対する効果的かつ効率的な支援」のグッドプラクティスは、今のところ見当たらないのだから、頭を冷やしてもう一度舵を切り直すべき。
担当課とは率直に意見交換させてもらいましたので、これをもとに10月には市民政策提案を提出する予定です。