江橋崇さん(法政大学教授)をお迎えし、「憲法崇拝体質と市民立憲」というテーマで近代日本の憲法史を振り返りました。
まず、明治維新後、試行錯誤の末に打ち出された国家のかたちは、天皇を頂点とする大家族主義。西欧国家のようにキリスト教による強固な繋がりのない日本にとって、天皇制こそが精神的な統合力の要であり、大家族として、「親に孝」「君に忠」という道徳体系の中で、教育勅語が必要とされた背景をうかがいました。
大正期には社会変動や大正デモクラシーを受け入れ、また、昭和期には軍国主義的な国家教育、アジアへの侵略をも肯定しながら、敗戦後はGHQとの和解にも成功、「新しい皇室」をアピールした思想家として和辻哲郎氏の足跡もたどりました。
明治、大正、昭和と社会の変化を先取りし理論化した政治学者が、中央政府や官僚の支配を支えていました。現代もまた、同じ構造のもと国民文化が作り出されているのかも知れません。江橋さんは、憲法制定5年後の意識調査では、憲法を読んだことがあるという国民はわずか10%であり、憲法支持の世論も作られた世論であったと話されました。GHQが提示した国民主権や議会制度改革に抵抗したのは官僚で、官僚主導の行政、司法システム温存に奔走したのであり、その意味からいえば、「官」による憲法という指摘もありました。
70年代、経済成長とともに環境、福祉、人権問題と新たな課題に向かった市民運動には、官僚は持ち得ない知恵があったのだという江橋さんの言葉は、市民主権は運動によってこそ生み出されるというメッセージでもありました。「官僚による改革」を受け入れるロジックでは超えられない、目ざすべきは、市民自治の憲法という指摘もありました。まだまだ消化不良ですが、実践の中で考えていきたいテーマです。